倉地類人加奈子

第一章



世界観を武器にしたらすべてうまくいく

住宅営業時代の仲間の彼から10年ぶりに電話が入ったのはその日の夕方。その夜、僕たちは居酒屋で久しぶりの再会を果たすのだった。

 

お、倉地、久しぶり。

 

類人
東、10年ぶりか!どういう風の吹き回しだよ。突然会いたいって。

 

いや、お前のfacebookの投稿を見てさ。ちょっと相談したくてさ。

 

類人
ん?お前、俺のfacebookの友達になってたっけ?

 

なってない。なんかお前のことを思い出して調べたら出てきた。

 

類人
やめろよ(笑)元カノでもあるまいし。で、相談ってなんだよ。

 

お前、会社経営してるだろ?俺もなんだよ。それでちょっとな…。

 

類人
ああ、それは風の便りで聞いてたよ。工務店やってんだって?うまくいってるって聞いたぞ。

 

ちょっと前まではな。正直今、厳しい…。

 

類人
へえ。で、俺に相談か。でもお前、住宅営業時代、「お前の売り方は認めねー!」みたいなこと言ってたよな?

 

ああ、今でも認めてない。けど、ここに来て、俺のやり方には限界があると感じてる。そんな時、お前の投稿見たら、昔とまるで変わっていない…どころか、好き勝手なこと言って、やりたいように生きて、そんでもって会社もうまくいってるように見える…。なんとなく雰囲気でな。実際、営業時代もずっと俺よりも圧倒的に売れてたわけだし。そんなお前が経営でもうまくいって、またこの俺がダメになりかけて、なんか悔しくて、思わず電話したってわけさ。

 

類人
なんだよ。お前らしくもない。お前、営業時代、「お前は認めねー」とかなんとか言って熱くなって、胸ぐら掴んできたことがあったの忘れたのか?そんな俺に助言求めちゃダメだろ。あの時の熱さ、どこ行ったよ?

 

熱さか…。どこ行ったかな…。

 

類人
なんだよそれ。今のお前なら従業員ついてこないだろ?

 

なんでわかるんだよ!

 

類人
頼りなさがでてるし、それに迷ってる感じがする。そういうことに一番気づくのが従業員だからな。

 

出てるか…、そんな雰囲気が。

 

類人
ついでに当ててやろうか?お前には今、会社がうまくいかなくなった理由がわからない。だから聞きに来たんだろ?どうしたらいいかわからなくなって。お前が俺に相談するなんてよっぽどだからな。一応、ライバルだったわけだし。

 

ライバルか。成績はお前の方がずっと上だったけどな。

 

類人
わかったよ。昔のよしみで教えてやる。お前がなぜうまくいかなくなったのか?を。

 

会って数分でなぜそんなことがわかる?

 

類人
お前は、こと仕事に関しては真面目だからな。真面目な奴こそ頑張れば頑張るほどうまくいかないようになってるんだよ、今の日本は。お前だけじゃない。俺のところに相談に来る経営者さんたちはそんな人ばっかだぜ。

 

そ、そうなのか。

 

類人
ああ。うまくいかなくなるのには、ちゃんとした理由がある。お前みたいに真面目だとな、正しく壁にぶち当たる。お前がうまくいかなくなった原因はズバリ「売り方」にあるぜ。

 

売り方?

 

類人
ああ。お前は住宅営業時代もお客さんに売ろうとするとトークがやたら真面目になってたよな?多分、今もそうだろ?

 

そ、そこは仕事だからな。

 

類人
やっぱりな。お前、俺が住宅営業時代に入社半年で全国表彰行った時、俺がどんな売り方をしてたか、知ってるか?

 

いや…、そういやお前、入社してすぐに全国表彰だもんな。正直、同期として羨ましかったし悔しかったよ。

 

類人
まあ、実はそんなかっこいい話じゃない。俺が売れてたのは、展示場に配属の前日に、4年付き合ってた最愛の彼女に振られたからだよ(笑)結婚を約束までしてた彼女にな。

 

はあ?

 

類人
洒落にならんぞ!配属の前日だぞ!入社初日に人生終わったと思ったわ!

 

なんでそれで売れるんだよ!答えになってないだろ。

 

類人
いや、それが答えなんだよ。配属した日、俺は目の中に入れても痛くないほどゾッコンだった彼女に振られた。当然、俺は大変な失意の中、接客どころじゃなかった…。ところがだ…、その日に限って、展示場にわんさかお客さんが入ってきた。その場にいる営業マンは全員接客について、人がいなくなった状況で、突然、店長から「人がいないから倉地くん、接客出て!」とか言われて、仕方なく俺は展示場の玄関に向かった。亡霊のような暗い雰囲気でな。

 

あ、思い出したぞ。確かお前、入社してきた時、彼女に振られたとか、どうのこうの言ってたな。

 

類人
ああ。それでさ。玄関に着くと、そこには赤ちゃんを抱いた若い夫婦が、展示場にまさに入られようとしていた。俺は接客しないといけないとは思いつつ、普通の精神状態ではなかったから、視野が狭くなっていたんだな…。お客さんが持ってたアンパンマンの風船だけが目に飛び込んできて、とっさにこう言ってしまった。「こんにちは…。あのー、今日はアンパンマンを見に来られたんですか?」って。そしたらご夫婦、きょとんとして、「いやいやいや、家を見にきました!家を!」って答えられた。ただ、俺はあろうことか、「いや、すみません。昨日、彼女に振られて接客どころじゃないんです。」って返してしまって、そしたら奥さんが「えー、振られちゃったんですか!話を聞きます。」とか言ってくれて、展示場のリビングのソファに俺をいざなってくれた。

 

なんだそれは…。着座を促すのは営業の仕事だろ!

 

類人
それどころじゃなかったんだよ!優しいご夫婦でさ、俺の話を聞いてくれるわけ。彼女と出会った経緯、付き合っている時の思い出、そして昨日、新横浜の公園で壮大に振られるまでを…。そんなことを話していたら俺も涙が出てきてさ。涙が出てきたどころか号泣だな。

 

お前何やってんだよ!仕事しろよ(笑)

 

類人
めんぼくない。それでさ、俺が感極まってると今度は奥さんが、「実は私にも大失恋の経験があるの。」って、突然、奥さんの過去の失恋話が始まった。するとご主人が、「そんなエピソードは聞いたことないぞ!」実は俺にもあるんだと打ち明けられて…、お2人揃って、俺に過去の失恋話を話し始めた。またその話が当時の俺には突き刺さってさ。ご主人も奥さんも俺も展示場のリビングで号泣。周りのお客さんは、「あの人たちなんで泣いてるんだろう?」って不思議そうに見てたな。

 

なんだそれは。呆れるわ。

 

類人
そんな感じで2、3時間くらい話していた頃だったかな。奥さんが「昨日、振られたばかりなのにこうやってちゃんと仕事をしていて偉いね。」みたいなことを言ってくれた時、俺が「彼女は多分、僕が仕事を一生懸命するところを好きでいてくれたから、仕事だけは休めないんです!」みたいなことを言った時だったな。ご夫婦が感極まった感じになって、3人が一体になった気がした。その時、ふと我に返った俺はご夫婦にこう聞いた。「あ、そういえばなぜ今日ここを見に来られたんですか?」って。

 

その奥様はどう答えたんだよ?

 

類人
「あ、私たち、なんでこんな話をしていたんだろう?思い出した!今日は実は展示場のインテリアを見にきたの。明日、●ホームで契約だから。」

 

あー、なるほど!よくあるやつだな。契約が決まったから他の展示場を見て参考にしたいってやつだ。

 

類人
そう。ただ、ここから変なことになっていった。急に奥さんがこう言ったんだよ。「なんか倉地さんとこうやっていろいろと話していたら、●ホームの営業マンが信用できなくなってきた!倉地さんから家の話が聞きたい。」ってなったと思ったらご主人まで「俺もそう思う。倉地さん、至急、見積もりをお願いできますか?」って。

 

嘘だろ…、なんでそうなるんだよ!住宅営業舐めんなよ!お前、住宅の話、一つもしてないじゃないか!

 

類人
そうだよ。でも見積もりが欲しいって言うんだから。ただ、俺は配属初日で、見積もりなんて作れないから、「ちょっと事務所に戻って店長に話してきますね。」って、それで店長に「あのー、見積もりが欲しいって言ってるんですけどー。」って報告したら「えぇ!?どうやったらそうなるの!さっき君たち泣いてたでしょ?」って聞かれたから「あ、はい。でも見積もりが欲しいって言ってるんですよ。僕には書けないからお願いします。」って言ったら「よ、よくわからないけど、でかした!」っていきなり興奮しだして、俺と二人で展示場のリビングに戻ったわけ。

 

店長も驚いただろうな。

 

類人
ああ。リビングに戻るとご夫婦は、俺がいかに素晴らしい人間か?店長に話してくれたよ。さっき会ったばかりなのに。それで店長がその場で●ホームの見積もりを預かって、「今日中に見積もり持っていきます!」ってなって。夜の21時のアポイントになって三日後に契約。これが俺の初契約。

 

まじでふざけるなよ。俺なんて初契約、その8ヶ月後だぞ。はじめて接客した人を契約って…。

 

類人
それだけじゃないぜ。この日はほんとおかしかった。そのご夫婦の接客後も、どんどんお客さんが展示場に入ってきて、俺はあの日、もう1組接客してるんだよ。その人も接客どころじゃないから、同じような感じの話になって、そしたら、その人も数週間後に契約。

 

知らなかった…、お前がそんなやり方で2棟も契約してたとは…。

 

類人
違うよ。その後の立て続けの数棟の契約はみんな同じ感じで契約した。

 

なんだよそれ…、ねーわ、そんなやり方。お前、住宅営業完全に舐めてるだろ?

 

類人
舐めてねーよ。それどころじゃなかったんだよ!人生最大のショックだぞ。そりゃお客さんに泣きつきもするだろ!

 

泣きつかねーよ!俺はプライベートは仕事にぜってー持ち込まねー。

 

類人
なるほど。やっぱりな。そこだよ、お前が今、苦境に陥ってる原因は。

 

どういうことだよ!

 

類人
入社して半年、俺は同じ手法で契約を重ねたが、俺とやり合ってきた他社の営業マンは、敏腕店長とかエリート営業マンとか、そういう人たちばかりだった。そりゃー、よほど商品の説明とかがうまい人たちだったろうよ。でもそんな人たちが入社したての無知な俺に軒並み負けていった。商品の説明なんてまったくしてないどころか、商品のことを知らない営業マンに(笑)

 

お前は商品の説明をしないで何棟も売ってきたのかよ!

 

類人
そうだよ。棟上げの時のお客さんが「え?私たちの家って木造なんですか?」って聞いてきたくらいだからな。木造か鉄骨かも知らないで契約してた人もいた。

 

お、お前ってやつは…。ありえないだろ!

 

類人
事実だからしょうがない。でも今なら、なぜ、あの時の俺が他社の敏腕営業たちに勝ってしまったのか?商品のことを一切説明してないのに何棟も売れたのか?その理由がはっきりわかるぜ。

 

理由があるのか?

 

類人
ああ。興味あるか?

 

教えてくれ。それは俺の知らない売り方だからな。

 

類人
だったらちょうど今、資料持ってるから説明してやるよ。「道売り」って手法をな。

 

道売り?聞いたことないな。

 

類人
俺たちが考えた言葉だからな。そもそもの話だが、実は売り方には大きく分けて3種類の手法が存在する。お前のやってきたのはその中の一つ「術売り」と呼ばれるものだよ。

 

術売り?

 

類人
そう。お前は仕事に対しては真面目だ。プライベートではちゃらんぽらんなのにな。

 

それは認める。その分、私生活はぐちゃぐちゃだ。

 

類人
でも、仕事となると違う。多分、お前が何かを売ろうとする時、例えばお前のところの商品、家を販売しようとする時、こう考えるはずだ。「自分の扱う商品が素晴らしいものでないといけない。」と。

 

当たり前だろ。変なもん売ったらお客様に失礼になるし、常に自分たちの商品のクオリティを高めるのは企業として当然だからな。

 

類人
そうだな。だからお前は、自分の会社の商品を、常に最新で最高のものにしようと努力してきた。社員にも「常に勉強しろ!商品のことを完璧に説明できるようになれ!」と指導してきたはずだ。

 

ああ、そうだよ。それが経営者の責務だろ。

 

類人
なるほど。ただ、それをしてきたはずなのに、売れなくなった場合、「どうやったら売れるのか?」経営者のお前自身がわからなくなってしまった。やり方を信じてついてきた社員も会社の結果が出なくなると、お前について来なくなるという問題が発生した。違うか?

 

なんでわかる!?その通りだよ!

 

類人
だから俺みたいな、自分とはまったく正反対の人間に相談しようとしたんじゃないのか?プライドを捨ててまで。

 

むかつくやつだな。図星だよ。今の俺の会社は社員と溝があるし、売れないし利益率も低い。正直、このままだと会社が危ない。

 

類人
なるほど。でも、それはお前が悪いわけじゃない。お前は一つの手法しか知らない。一つの売り方しかやってきてない。それでここまでの会社にしたのはある意味すごいぜ。お前の売り方、今の会社がどうなってるか当てようか?こうなってないか?まずお前にはこの強烈な固定概念がある。「自分の扱う商品が素晴らしいものでないといけない。」これがあると商品を売る時どうなるか?簡単だ。この図のようになる。

 

類人
お前は仕事に関しては真面目だからこの固定概念を持っていると、売り方がワンパターンになる「自分の扱っている商品は素晴らしくて完璧でないといけない、変なものを売ってはいけない」という使命感のもと、売ろうとすると必然的にな。「自分の持っている素晴らしい商品の素晴らしさを訴求しよう!」と。

 

ん?それの何が悪いんだ?

 

類人
悪いとは言ってない。でもお前は自分で努力して今、扱っている商品は素晴らしいものと思っているから、それを一生懸命訴求して売ってきてるはず。でももし、お前がそういう商品を持っていなかった場合、どうなると思う?この図に書いてある通り、経営者は「まずは素晴らしい商品を持たないと!素晴らしい仕組みを手に入れないと!まずはそれからだ!」とばかり使命感に囚われ、それを手に入れるためにお金と時間をかける。お前だって、そうやって今扱っている商品を手に入れたんじゃないか?

 

そうだよ。金と時間をかけて自分で開発したさ!いちいちイライラくるがなぜそんなことがわかる?

 

類人
自分で住宅商品を開発したのか…、そりゃ凄い。なら愛着もひとしおなはずだ。なるほど。でもこれ、お前だけじゃないんだよ。お前はまだいいよ、商品を開発できる力があるんだから。自分で良い商品を手に入れたんだから。でももし、そういう商品が手に入らなかった場合、どうなると思う?そういう経営者は「素晴らしいものを手に入れないと売ってはいけない!」という使命感のもと、売ることさえしなくなるんだぜ?女性の起業家なんかこのパターン、ものすごく多い。良い商品、良い仕組みを手に入れるためにずーっと、起業のための勉強にお金と時間を費やして、売り上げなんてほとんど発生していない起業家なんて5万といる

 

そ、そうなのか?

 

類人
ああ。でもわからなくもないんだよな。そういう人たちは「良い商品、良い仕組みさえ手に入ればうまくいくんだ!」って信じているから止められない。問題はここからだ。仮にそういう人たちが ”良い商品を手に入れたとしても売れるとは限らない” という現実があるってことだ。

 

売れる場合だってあるだろ?

 

類人
もちろんある。お前のように優秀ならな。良い商品を手に入れてそのことをちゃんとお客さんに説明できる能力があれば。でもそれができたとしても、ここで問題が起こる。日本人のほとんどがこの固定概念を持って術売りをしてるということは、みんながみんな、良い商品の商品説明を一所懸命してビジネスをしてるってことになるわけだ。そうなるとお客さん側としては、同じようなやり方ばかりで、どれが良いのか?さっぱりわからなくなるんだな。

 

どういうことだ?

 

類人
つまり日本にはお前みたいな売り手、術売りの会社ばかりだってこと。「うちの商品は素晴らしいです!」っていう人たちばかり。でもみんなからそう言われたらどれがいいか、お客さんはわからないって話。

 

な、なるほど。確かに住宅の性能のことを一生懸命説明しても、お客様は口をポカンとしてること、多いもんな。

 

類人
それがお客さんのリアルなんだよ。なのに経営者は一生懸命、自分の商品の良さを伝えて、それで売れないと次にやることは決まってくる。値段を下げたり、いろいろな特典とかサービスとかプレゼントをつけたりして、なんとか他社に勝とうと必死になる。どことは言わないが、家買ったら車プレゼントしてる会社まであるだろ?でも、それをすればするほど、さらに、お客さんはどこが良いのかがわからなくなっていく。それでも売れないと経営者はどうするか?利益度外視の安売り合戦に突入していくことになる

 

もうなってるよ!まさに俺の会社だよ、それ。俺だってわかってんだよ。安売りをしてはいけないことは。ただ、それしか方法がない。だから、お前が今言ったようなことを全部やってきたんだよ。そうしないと経営が成り立たないからな。売り上げなきゃ社員を路頭に迷わせることになるし。

 

類人
でも完璧に行き詰まった。だから俺に相談にきたわけだろ?

 

ああ。

 

類人
まだある。お前が持っているその固定概念「自分の扱う商品が素晴らしいものでないといけない。」は、実は社員教育にも影響する社長のお前自身が自分は常に素晴らしくなければいけないという価値観、ポリシーを持つことになって、それを従業員にも押し付けてしまう。どうなるか?「お前たちも俺と同じように常に素晴らしくあれ。完璧であれ。」と指導してしまう。

 

…。

 

類人
こういう経営者、ほんとに多い。完璧主義者。でも社長より優秀な社員はいなんだぜ?お前のその素晴らしさや完璧さを押し付ければ押し付けるほど、社員との溝が生まれるし、まだ、このやり方でうまくいっている時はいい。問題は業績が下がった時、つまり給料が下がったりすると、すぐに社員が離れてしまいがちになる。会社自体が、金で釣ってる兵隊育成みたいな風土になってるからな。しかも、会社がこんな風土だと、今の若い世代はまずついてこない

 

はあ…、俺の会社そのものだな。まさに若い世代こそ俺について来ない。おかげで俺の会社は全員、40代だ。妻を除いて。

 

類人
ほんと、この固定概念は罪だぜ。経営者を殺伐とした人間に変え、業績が悪化した時、正しく問題をその会社に連れてくる。これが ”競争が行くところまで行った術売りの末路” であって、それを今、リアルに体験してるのがお前ってわけだ。いい分析だろ?

 

おい!のんきに分析するのはやめてくれよ!じゃあ、俺はどうしたらいいんだよ!

 

類人
簡単さ。お前の持っている固定概念を捨てればいい。「自分の扱う商品が素晴らしいものでないといけない!」って考え、完璧主義をな。

 

お前はほんと、昔からいい加減だよな!そんなことできるわけないじゃないか!じゃあ、俺もお前みたいにいい加減になれってか!?

 

類人
おいおい、俺はいい加減じゃないぞ。それより、お前が真面目すぎるのがまずい。「完璧でないといけない!仕事はふざけてはいけない!」そういう考えが強すぎると、商品のことを良くすること以外、考えられなくなってしまうのが問題だって言ってる。俺の営業時代の例にとったら、商品の説明なんて一切してないんだぜ?でも売れた。お前にそんなやり方、考えられたか?「そんなやり方は邪道だ!それは認められない!」そんなことをずっと思っていたはずだ。そこが問題だってことだよ。

 

…。なるほど。確かに今、行き詰まって、まさかのお前に相談してるわけだしな。会社が潰れそうなピンチになって、俺の考え方を根本的に変えるための状況が今なのかもしれないな。

 

類人
東がそう思ってくれるなら話せるんだよ。お前のやっている以外の方法が。その固定概念を取ると見えてくるビジネスのもう1つのやり方が。お前が今仮に、自分の商品が完璧じゃないとしたらどう売る?

 

んー、やったことがないからわからないな。

 

類人
なるほど。商品が完璧でない場合、やることは1つしかない。”商品以外の部分で付加価値をつけること”

 

商品以外の部分で付加価値をつける?

 

類人
そう。商品ではない部分、自分の魅力とか世界観で付加価値をつけて売る。俺の新人時代の話もそうだろ?入社配属1日目で商品のことなんて知らないし、失恋でそれどころじゃないから、自分のことを話した。そしたらお客さんが俺自身を好きになってくれて住宅が売れた。実はこれができると術売りをしてる人たちを簡単に凌駕してしまうんだよ。だから新人なのに、他のメーカーの敏腕営業マンたちをバッタバッタ倒してしまったというわけ。

 

な、なるほど。無意識にお前はこれをやっていたということか…。

 

類人
たまたま偶然にな。でもあの極限の状況で、自分の身の上話を話して、住宅が何棟も売れた経験は、俺にとってはでかかったんだよ。あの時から俺は常に「なぜ、お客さんに自分の話をしたら売れてしまったんだろう?」って、その理由を探求してきたし、今、教えてる「道売り」っていう手法も、そもそも俺に、お前が持っているような固定概念がなかったから確立できた手法と言える。あと俺の場合は、入社からずーと売れ続けたのも大きかった。会社も俺のやり方を否定しなかったしな。

 

なるほどな。初日から売れ続けりゃ、そりゃ何も言われないわな。ただ俺は、今までお前の言う”術売り”しかしてきてない。今さらお前みたいに不真面目になれって言われてもなれないぜ。

 

類人
その、”真面目不真面目” の話はいったん置いておこうぜ。そこじゃないんだよ。これは売り方の違いの話。”お前の売り方と俺の売り方では種類が違うんだ” って話。だったら自分以外の売り方を、お前は知る必要があるだろ?

 

まあ、そうだな。

 

類人
お前は今、従業員が自分について来なくて、しかも商品も他社との競争の中で利益率も下がっているわけだ。もし、お前が今のままのやり方で、これからも進むというのであれば、今から話すことは知る必要がない。でも、もしお前がこれから、従業員は自分についてきて、競合はなくなって、利益率は上がって、リピート率も超高くて、自分の呼びたいお客さんだけでビジネスをしたいと思うなら、考えを改める必要がある

 

そんな理想が叶うのか?

 

類人
実際、俺たちは今、それを実現してる。そして俺たちのクライアントさんたちもな。

 

そうなのか?

 

類人
できるんだよ。知らないだけで。ディズニーランドを見てみろよ。どの遊園地よりも利益率が高くて、信者のようなお客さんたちが集まって、従業員はディズニーのファンで構成されている。末端の掃除の担当の人であっても、自分はディズニーの一員というプライドを持って働いている。ディズニーのワンデーパス、今、1人1万円以上だぜ?じゃあ、ディズニーランドの乗り物って性能が最高か?って言うとそうじゃない。富士急ハイランドの方がよっぽど高性能な乗り物を揃えているよな。たぶん、今のお前だとディズニーランドがなぜ、うまくいっているのか?理解できないはずだ。ただし、ここが理解できたら、お前の会社は一気に変わる。

 

た、確かに理解不能だ。

 

類人
ビッグサンダーマウンテンなんて、正直、普通のジェットコースターだもんな。しかも何十年と変わっていない。お前が経営者だったらすぐに最新鋭のマシンに入れ替えたくなるんじゃないか?

 

当然だな。常に最新のものを揃えておくのが経営者の仕事だろう。

 

類人
なるほど。ああ。じゃあ聞くけど、今のお前が遊園地を経営するとしたらどんな形でやるよ?

 

遊園地を経営か…。俺だったらとにかく高性能な乗り物を揃えるな。話題の乗り物とか、世界最速のマシンとか、とりあえずお客さんを呼び込めるものを用意するだろうな。あとは誰かとコラボしたりしてイベントとかやるとか…。

 

類人
なるほど。それを実際にやった遊園地があってな。三重県にある、志摩スペイン村パルケエスパーニャってとこなんだけど。vtuberとコラボしてたよ。でも、イベント中は一時的に客が増えてもすぐに元通りさ。

 

それはわかる。実は俺の会社でも同じようなことをやってるから…。

 

類人
だろ?おそらく日本人が遊園地を経営するとなると、ほとんどが、東のような考えになるから、富士急ハイランドもナガシマスパーランドも、全国の日本資本のほとんどの遊園地が、同じような形の売り方になっている。そういう遊園地って、入場券もどこも同じような価格帯だし常にどこかと競争してる。お前のいる住宅業界と一緒の構造だよ。

 

確かに。

 

類人
ディズニーランドを見てみろよ。1DAYパス1人1万円でもお客は来る。まさに1人勝ち。どの遊園地とも競合しないし、信者のようなファンで溢れてるし、従業員のモチベーションも著しく高い。

 

いや、それはわかるよ。子どもに付き合わされてよく行くから。ディズニーに行く時は1日目はランド、ディズニーのホテルに泊まって、二日目はシー。お土産もたくさん買わされて、とんでもない金額を使わされる。

 

類人
そして子どもや奥さんの満足度は高い。

 

ああ、その通り。

 

類人
間違いなくディズニーランドは、お前の持ってるような固定概念「商品は素晴らしいものでないといけない!」を持っていない会社だと思うぜ。

 

た、確かになあ。ビールも普通の麒麟だしな。でも一杯1000円近くする。そう思うとむかついてくるな。お前みたいな不真面目な会社が、なぜうまく行くのか?俺の方が真面目なはずなのに。

 

類人
だから真面目不真面目の問題じゃないんだって。やり方の問題。お前は富士急とかナガシマスパーランドのような遊園地のやり方しか知らないだけ。しかも実は、内心どこかで、ディズニーランドみたいなやり方に憧れていたりする

 

正直、憧れてる。悔しいけどお前にも。まあ、確かにディズニーランドは従業員の満足度も高いし、乗り物の性能で競ってるわけじゃないし、信者も多いから、もし俺の会社もディズニーランドみたいになったら、今起こってる問題はすべて解決しそうな気がする。

 

類人
だろ?というよりもそれ以外、お前の会社を劇的に変える方法はないのかもしれないぞ。ディズニーランドと、その他の日本の遊園地の違いは、顧客が求めてるものにあるディズニーには、お客は世界観を求めていて、その他の遊園地には乗り物の性能を求めてる。だから、富士急がいくら性能が良い乗り物を揃えても、ディズニーの世界観を求めてる人には響かない。

 

子どもを見てればわかるよ。ディズニーの世界観にどっぷりさ。ディズニーの代わりに富士急に行こうとは言わない。

 

類人
子どもの方がよくわかってるじゃないか。じゃあもし、お前の会社が住宅業界でもディズニーランドのようになれば、それこそ1人勝ちできそうだろ?性能を競い合っている他の会社たちを差し置いて。

 

確かにできそうだが、できるのか?そんなこと。

 

類人
できる。それだけじゃない。ディズニーは、従業員たちだって、「ディズニーの世界観と作りたい!その一員としていたい!」って思ってる人たちで構成されるから、当然、ちょっと会社の業績が下がったくらいで辞めることはない。お前の会社の従業員たちもそうなったらどうだよ?

 

最高だよ。もちろん、できるならやってみたいさ。従業員たちが金じゃなくて俺についてくる感じってことだろ?

 

類人
そうだよ。東の信者になってな。というかそれがやりたくて起業したんじゃないのか?自分にしかできないことで、自分の魅力で、人を従えて、生きてる証を時代に打ち付けたくて、会社を起こしたんじゃないのか?少なくとも俺はそうだぜ。

 

そうだよ!最初はな。現実はまったくそうはなってないだけで。

 

類人
で、それができてそうな俺を見て、羨ましいと思って電話をかけた。

 

ああ。

 

類人
だったら今こそ、東の会社をディズニーランドにする方法を知る必要があるんじゃないか?

 

そんな方法があるのか?

 

類人
あるよ。ただ、それを理解するには、ここからは少し難しい話になる。ディズニーの売り方の解明だ。最初に言っておく。難しいぞ。ついて来れるか?

 

舐めるなよ。お前より学歴は上だぜ。

 

類人
そうだったな。なら教えてやる。お前の売り方とディズニーランドの決定的な違いは、お客さんにエピファニー体験をさせているか?させていないか?の違いなんだよ。

 

エ、エピファニー?

 

類人
そう。このエピファニー体験にこそビジネスの本質があるここがわかればディズニーの売り方は解明される。知りたいか?

 

もちろんだ。教えてくれ。
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