倉地類人加奈子

改めまして。倉地加奈子です。この書籍には、ただ売り上げるだけ、ただ人が集まるだけでは満足できない起業家さんがどうやったら満足できるか?その解決策が書いてあります。

結論から言うと起業家が、ただ売り上げるだけ、人が集まるだけでは絶対に満足できない確固たる理由がしっかりと存在します。

そして実際、その理由を求めてか、私のところには、売り上げてはいるけど、人は集まっているけども、なんかモヤモヤしている起業家さんが私に引き寄せられるように現れてくださいます(笑)。

なぜ、私はそういう方を引き寄せるのか?それはその方々の勘が鋭いからです。売上を上げている方や、人を集めている方で、でもモヤモヤしている方は、それだけ答えを求めているんだと思います。自分の中のよくわからないモヤモヤを解決するために。その方の脳内サーチセンサーが彼らと私を結びつけます。

結論から言うと、私はそういう方々にわかりにくいモヤモヤを解決策を示すことができますし、それが私の仕事です。そういう方を前にすると私は、どうしても解決策を教えたくなってしまうんです。

この物語は、私のところに引き寄せられてきたそんな悩みを持った一人の起業家さんとの実話のエピソードを元に書き下ろしたものです。それでは参ります。

それは知り合いの起業家さん西条さんのセミナーに招待してもらった二次会会場、飯田橋にある居酒屋さんでの話。10人掛けくらいの大きなテーブルで、セミナー参加者さんたち同士で談笑していた時でした。

私の対面に座る一人のいかにも成功してそうな雰囲気を持った男性がやたら大きな声で周りの人と話している内容が嫌でも耳に入ってきます。

周りの女性
何やっている方ですかー?
蔵前さん
僕ですか?会社を経営してますけど。まあ、近いうちにもう一つ会社を作るんだけどね。
周りの女性
わあ!すごーい!どれぐらい売り上げてるんですかー?
蔵前さん
今の会社は1億5000万くらいかな。
周りの女性
すごーい!車は何乗ってるんですかー?
蔵前さん
一応、ベンツのSだけど。
周りの女性
わあ、成功者ですねー。
蔵前さん
まあね。
私の心の声
うわ!めんどくさそう!典型的な自信過剰起業家タイプ!話したいくないな。

その時でした。今回のセミナーを主催された講師の西条さんが私たちのテーブルに挨拶にきてくださいます。

西条さん
皆さん、この度はご参加ありがとうございます。セミナーは満足してもらえましたか?(私を見つけて)あ、倉地さん!ご参加ありがとうございます。
西条さん、お久しぶりです。この度はご招待ありがとうございました。西条さんらしいセミナーで有意義な時間を過ごさせてもらいました。素晴らしかったです。
西条さん
倉地さんにお褒めいただけるなんて嬉しいな。
周りの女性
ほんと良かったですー。

その時、人一倍大きな声が西条さんに向けて発せられます。そう、あの男性です。

蔵前さん
正直言わせてもらうと西条さんのセミナーにしては残念でした。

その場の空気が凍りつきます。

西条さん
え?え?そうでしたか…。すみません。どんな部分がダメだったのでしょうか?
蔵前さん
まず今日のセミナーの内容で学べる内容だけど、僕としてはもっと難しい内容を講義して欲しかったですね。とても内容が薄いように感じました。
西条さん
あ、そうでしたか…。
蔵前さん
集客がテーマのセミナーでしたけど、僕ならもっと役立つ情報をセミナーの内容にしますね。やっぱりセミナーをするなら最新の内容を教えないと。そういう意味ではありきたりの内容に感じましたね。
私の心の声
うわ!なんてこと言うの!?この人!そんなこと言う必要ないのに!
蔵前さん
さらに言うと、今日のセミナーでは、実践的に使えるテクニックがなかったですね。今ではLステップとかiステップとか集客に使えるツールはたくさんあるわけで、集客の専門家の西条さんからそういう使えるツールの話が出てこなかったことは正直残念でしたね。そういうものを期待してきたので。僕が西条さんのセミナーを作るならそういう感じにしたでしょうし。もっと良いものになったでしょうねー。
西条さん
あ、はあ、す、すみません。
周りの女性たち
・・・。
私の心の声
自分の自慢!?わかってないなーこの人!
西条さん
い、いやーなんかすみません。僕のセミナーの内容のせいで皆さんの空気を悪くしてしまったみたいで…。
私の心の声
なんで西条さんが謝らないといけないの!もう我慢できない!

この時、私の中のおせっかい虫が発動してしまいました。

私は西条さんの今日のセミナー、凄く良かったと思いますけどね!
蔵前さん
ん?あなたどなた?どこが良かったと言うんですか?
まず、あなたが言われたもっとセミナーの内容が難しかった方が良かったとの意見ですが、今回のセミナーに関しては必ずしも難しい内容である必要はなかったと思います。
蔵前さん
じゃあ、何が必要だったんですか?
今日のセミナーのお客さんの多くは主婦の方や起業初心者の方です。だからそういう方々にとって学びとなるような構成で作られていた印象を受けました。セミナーは難しいものを教えればいいというものではないです。
周りの女性たち
そうそう。うんうん。
蔵前さん
はあ?
さらに今回のセミナーには、最新の情報が入っていなかったということですが、今回の参加の客層を考えると最新の情報よりも大切なものがあって、今回のセミナーにはそれが要素として含まれていたように思います。参加者をやる気にさせる工夫が随所に施されていたことに気づかなかったんですか?最新のもの、目新しいものばかりに注目してしまっては、そういう西条さんの気配りには気づけませんよ。
周りの女性たち
わかるわかるー。
蔵前さん
な、なに!?
さらに使えるテクニックがなかったとのことでしたが、テクニックうんぬん言う前に、このご時世であまりセミナーが対面で開けない中、久しぶりに対面で集まった私たちを、存分に楽しませようとしてくれた西条さんの演出に感動はなかったのですか?私は西条さんのそういう意図を感じましたね。そして今回のセミナーは、西条さんの世界観を感じることができてそこが心地よかった。だからあれだけセミナーが盛り上がったんだと思いますよ。ということで今回の西条さんのセミナーはあなたが言うようなひどいものではなかったと、私は西条さんの名誉のために申し上げておきます。
周りの女性たち
そうそう!今回のセミナー、ほんと素晴らしかったですー。西条さんワールド全開でした!

この時、卓上にいた人たちからは大きな歓声と拍手がわき起こりました。

蔵前さん
ぐ、ぐ…。
西条さん
倉地さん、嬉しい感想ありがとうございます。それではみなさん、時間まで二次会をお楽しみくださいね。

西条さんはそう周りに告げると、私と蔵前さんだけに話し始めました。

西条さん
倉地さん、ちょっとお話ししてもいいですか?
もちろん。私、変なこと言っちゃったかな?出過ぎたことをしました。西条さんのセミナーへの思いを批判された気がして、つい言わなくてもいいことを言ってしまいました。
西条さん
とんでもない。嬉しかったですよ。あ、そうだ、蔵前さんもご意見ありがとうございました。実は今回、蔵前さんと倉地さんは僕が招待させてもらった唯一の、招待客枠のお二人です。
え?そうだったんですか!?
蔵前さん
え?この人も招待枠?
西条さん
蔵前さんも倉地さんもコンサルタント業同士。しかも二人とも成功していらっしゃるので、お二人を引き会わせたかったんですよ。二人とも同じような仕事をされているのに、お互いまったく違うやり方をされているので。そんな二人が出会ったらどんな化学反応が起こるのかな?って凄く興味があったんです。
蔵前さん
化学反応も何も、初対面でいきなり論破されちゃいましたけど…。
西条さん
蔵前さん、倉地さんって面白いでしょ?(笑)ではあとは二人で!

そう言うと西条さんは私たちから去り、別のテーブルへの挨拶に向かったのでした。

蔵前さんとおっしゃるのですね。さっきは言いたいことを言ってしまってすみません。西条さんのお知り合いだったとは…。
蔵前さん
いや僕の方こそ、完全にやられてしまった感じがして。でもなぜ、卓上の皆さんが倉地さんの意見に賛同して喝采したのか?いまいち、理解できないんですよね。なぜ、あのセミナーの内容で参加者たちの満足度が高いのか?倉地さんの言った意見になぜ卓上の皆さんは賛同したのか?モヤモヤしてます。
私たち同業同士だったんですね。たぶん、蔵前さんと私とではやり方が違うんだと思いますね。でも成功させているならすごいじゃないですか。
蔵前さん
やり方が違う?
ちなみに蔵前さんは、それだけ成功しているのになぜ、今日のセミナーに来られたんですか?蔵前さんに必要とは思えませんけど。
蔵前さん
招待されたってのもありますけど、実は僕、今、もう一つ会社を作ろうとしてるんですよ。その参考になるかなと思って。
そうなんだ。今、会社があるのになんでもう一つ、会社を作りたいんですか?
蔵前さん
今の会社で売上が1億以上あるので、もう一つ作れば売上が倍になるかなと。
ん?でもそれだったら、今の会社で売上を倍にすればいいじゃないですか?
蔵前さん
いや、そうなんですけど。今の会社は共同経営者がいて、ほとんど僕が実務はしてるんですけど、僕に下の人がついて来ないんですよ。共同経営者の彼ばかりについていって…、それがなんかやるせなくて…。あと僕がせっかく人を育てても、その人が自分の下の人を引き連れて辞めてしまうことが多くて、人も育たないんですよね。そういうことがあるたびに共同経営者の彼に叱られちゃうし。
なるほど、と言うことは蔵前さんは売上を倍にするためが目的というよりも、自分に人がついてきてくれる自分だけの会社を作りたいということですね?
蔵前さん
ん?ああ、そういうことなのか。そうかもしれないですね。そうだったかも!
だから西条さんは私たちを引き合わせたのかもしれないですね。西条さんがそこまで意図していたことはわかりませんけど(笑)
蔵前さん
倉地さん、この少しの時間で、よく僕の真意がわかりましたね。実は自分でもなぜ会社をもう一つ作りたいかがわかってなくてずっとモヤモヤしてたんですよね。でもそういうことだったのか。おかげでスッキリしました。

この瞬間、蔵前さんのガードがなくなった気がしました。

蔵前さん、西条さんが私たちの引き合わせてくれたついでにちょっとおせっかいしちゃうと、たぶん、蔵前さんが本心で作りたい、自分に人がついてきてくれる新しい会社はこのままで行くと作れないと思うよ。単純に売上だけを倍にすることはできるかもしれないけどね。
蔵前さん
そうなんですよね。たぶん稼ぐことは得意だしできると思うんですけど、結局、今の会社と同じようになったらあまり意味がないですからね。倉地さんの言うように、よく考えると売上を倍にするだけなら今の会社でいいわけですから。それがモヤモヤの原因なんだろうな。
もし、お望みであれば、今のまま、会社を起こしたら、今の会社と瓜二つの会社が出来上がる理由を私は話せるんだけど、聞きたい?
蔵前さん
え?そんなことわかるんですか?聞きたいです。
わかるよ。というより、今の蔵前さんのような状況の人を前にすると私のおせっかいの虫が発動しちゃう(笑)ちなみに蔵前さんって高学歴でしょ?
蔵前さん
まあ、そうですね。東大です。
やっぱり!東京大学でも教えてくれないビジネスには二つのやり方があって、たぶん、蔵前さんは一つのやり方しか知らないんだと思う。だからあのような西条さんのセミナーの論評になったんだと思うんだよね。蔵前さんもコンサルタントとして「そうした方がもっとセミナーが良くなるのに。」って西条さんを思って言っていたと思うしね。
蔵前さん
そうですよ。なんかセミナーに参加した人たちは、僕の言ったことにピンと来てなかったみたいですけど。僕の主催するセミナーとかクライアントに作っているセミナーとは客層が違う感じはしましたね。
実はそれは客層というよりも、そもそもの売り方の違いなんだよね。西条さんは ”道売り” をしていたんだよ。
蔵前さん
道売り?
そう。ビジネスには明確に二つのやり方が存在していて、それが道売りと術売りの二つ。あ、この二つの名前は私がつけたものだよ。
蔵前さん
道売りと術売りですか?術売りの方がなんとなくわかる気がしますが。道を売るってのはちょっと意味がわからないなあ。
蔵前さんが行っているやり方がまさに ”術売り” だからね。
蔵前さん
僕のやり方が ”術売り” ですか?
うん。道売りと術売りの詳しい内容はおいおい話すとして、道売りと術売りのわかりやすい実例をあげるとね、二つの違いが想像してもらいやすいと思うんだよね。そうだな、遊園地の例がわかりやすいかな。道売りをしているのがディスニーで、術売りをしているのが富士急ハイランド。
蔵前さん
ふーん。なんとなく両者は雰囲気が違いますね。
ディスニーランドやディズニーシーに行く人たちって、ジェットコースターとかの乗り物の性能を求めてはいないじゃない?それよりもディスニーランドで体感できる世界観を楽しんでいるというか、キャラクターとか食べ物とか、スタッフとかすべてのものが、ウォルトディスニーが表現したかったディズニーの世界観、つまり道に繋がっている感じになっている。一方、富士急ハイランドは、それぞれの乗り物の性能、スピードとかが日本一だったり、規模が日本最大規模のお化け屋敷だったり、その性能で差別化を図っている。つまり提供できる ”術” が売りになっているよね?
蔵前さん
なるほど。それが術売り…。そうですね。それが道売りと術売りの違いか。
蔵前さんは勘が鋭そうだから、道売りと術売りの詳しい内容を説明しなくても、もうわかっちゃったかもしれないけど、この二つの売り方は、どちらのやり方でもお客さんを呼べるんだよね。だって日本一の性能を誇る絶叫マシンを求めている人もいるわけだから。でも一方でディズニーが持つ世界観を体験したい人もいる。蔵前さんのやっているビジネスは前者の人にしっかりと答えることができているから、一億円以上を売り上げているんじゃないかな。
蔵前さん
なるほど。そうですね。僕の会社が作って差し上げるセミナーの資料とかは、どんなセミナーよりもクオリティが高いから、クライアントから支持されていると思いますし。
さすが頭がいいですね。それが蔵前さんの売り方であって、その高い技術を武器にして今の会社をここまでの会社にした。
蔵前さん
そう言われればそうですね。
でもね、術売りをしていると一つだけできないことがあって、それが、高性能な絶叫マシン(術)を求める人しか相手にできないということ。そして ”術” は常に他と比べられてしまうということ、なんだよね。
蔵前さん
それはそうですけど、僕、仕事好きですし、常に最新でクオリティの高いサービスを提供するために勉強してますし、術や技を比べられたところで、絶対に勝つ自信はありますけどね。
さすが。でも、いくら性能を高めて術を極めていっても、術売りにはできないことがあって、それが「世界観を売りをしているところに負けてしまうことがある」という現実なんだよね。術を求める人の中ではトップにはなれても、世界観を求める人には逆にそれがまったく響かなかったりする。
蔵前さん
な、なるほど。だから今回の西条さんのセミナー参加者の方々には、僕は響かなかったですね。そういうことか。
そう。ディスニーの世界観を求める人たちに、日本一の性能の絶叫マシンの凄さを語ってもキョトンとされてしまう。それが今日、蔵前さんと私の前で起こったことなんだと思うよ。
蔵前さん
そ、そうか。そう思うと恥ずかしいですね。理屈でわかると特に。それであの時、倉地さんは、僕の意見は的外れだということを指摘されたんですね。
そう。西条さんのお客さんは西条さんの作る世界観に共感して今日のセミナーに来ていた。最新のスキルとか、とっておきの使えるツールとか、そういうものを求めて来てたわけじゃないから、今日のセミナー内容で満足だったんだよ。セミナーが参加型になっていたのも、西条さんが意図的にお客さんが世界観を体感できるように工夫してた部分。難しくしてしまうと、あるいは理論ばかり並べてしまうと、逆に世界観が崩れてしまう可能性もあったから、西条さんはそこも考えていたんじゃないかな。
蔵前さん
え?そんなことを考えて西条さんはセミナーを作っていたのか。そういう作り方は僕は知らない。
道売りと術売りの決定的な違いは、顧客が求めているものの違いなの。道売りの場合は顧客はそのサービスで提供される世界観を求めているのに対して、術売りの場合は顧客は術、つまり性能の高さや品質を極限まで求めている。西条さんのお客さんはディズニーの方のお客さんだったんだよ。
蔵前さん
そうか。なるほど。僕はその人たちに対して、「高精度の絶叫マシンがなかったから満足しなかったでしょ?」と説いていたわけですね。恥ずかしいな。
その通り。空気感が違ったのがわかったでしょ?だってディスニーランドにあるビッグサンダーマウンテンって正直、普通のジェットコースターの性能だよね。ビッグサンダーマウンテンの前に「世界最速マシンを体感せよ!」って書いてあっても「ん?」ってなりそうだし(笑)
蔵前さん
あー、僕はそれをしていたのかー。ちなみに僕はディズニーランドやディズニーシーに行ったことがないんですよ。
え?うそでしょ?そんな人いるの?
蔵前さん
ここにいます。ディズニーランドのジェットコースターって性能は普通なんですね。さぞ凄い性能のジェットコースターがあるものだとばかり思ってました。
ディズニーランドに行ったことがない人はそう考えるのか…。蔵前さんのビジネスモデルが想像できるなー。性能命!っていう感じがする。
蔵前さん
僕、勉強しかしてきてないですからね。学生の時から起業してますし。
それも凄い!東大在学中に起業するなんて。話を戻すと術売りの場合、道売りとは違ってお客さんは術を取りにくる。世界観を求めにきてるわけじゃないからね。でも、あまりに高性能な術を提供すると、それを受け取った人は、それでもう満足して帰って来ないことがある。あるいはもっと性能が高い他を探すなんてこともあるね。
蔵前さん
あ、僕の会社のクライアントもそんな感じですね。リピート率は高いとは言えません。まあでも高度なものを提供したんだからそれはそれで良いと思ってはいますが。
道売りだとこれがまったく違ったことになって、ディズニーランドには、月一で行く人もいるし、年間パスを持っている人も多い。それって、世界観を体感しに行っているわけで、道、世界観に酔っている人は、何回行っても飽きないんだよね。日常に戻るとまたその世界が恋しくなる感じでね。
蔵前さん
そんな人いるんだ。年間パスとか僕には考えられないな。暇じゃないし。
道売りと術売りの違いはそれだけじゃないよ。そこで働くスタッフの働いている理由も違ってくる。ディズニーで働く人たちは、たぶんだけど、「ディズニーの世界観を一緒に作りたい!参加したい!」という人たちだと思うんだよね。一方、富士急ハイランドはディズニーに比べるとそういう人たちは少ないんじゃないかな。
蔵前さん
あ、なんとなくわかってきた。うちの会社、僕ともう一人の共同経営者の彼がいるんですけど、社員たちが共同経営者の彼ばかりについていくんですよ。能力とか仕事は僕の方が絶対優れているのに、「なんで僕には人がついて来ないんだ!」っていつももどかしさがあったんですよね。しかも、僕の目にかけた社員に限って、とっておきのノウハウを教えるとそれも持って辞めてしまっていなくなってしまう…。そういうことが起こると、共同経営者の彼に怒られるなんてことが多々あるんですよ。でも彼の慕う人たちはなかなか辞めない。それって彼の世界観に酔っているってことですか?
さすがに鋭いね。その通りだと思う。道売りができている起業家は、お客さんと従業員をその人の世界観で惹きつけることができている。言い換えると、その人のファンになっている。ファンはその人の世界観についていきたいと思うからついていく。だから道売りをしている人の中には、実はスキル自体は大したことない人もいたりするんだよね。
蔵前さん
まさに僕の共同経営者の彼そのものだ…。彼、全然仕事できないんですよ。でもみんなが彼のために一生懸命働いて…。それなのに使われている人はなぜか嬉しそうで。なんだそれって!一番会社に役に立ってるのは僕だぞって!なのになんで僕には人がついて来ないんだ!ってずっと思ってましたけど、そういうことだったのか…。
蔵前さんは共同経営者の彼のことをこう思っていたんじゃない?雰囲気だけいい人、人当たりだけいい人、調子のいい人、カリスマ性だけの人、自由な人。まあ、社長さんって、こういうタイプは実際、多いわけだけど。
蔵前さん
そ、そう!まさにそれが僕のパートナーの共同経営者の彼です。でも、どうしてそれがわかるんですか?
たぶん、蔵前さんがその会社の術を担っていて、その共同経営者さんが道を描いているのかもしれないね。ちょっと言いにくいけど、今の蔵前さんの会社は共同経営者さんの道がベースだよ。
蔵前さん
それだ!僕が新しく会社を作りたかった理由は。倉地さんの話でどんどん自分の会社を起こしたかった理由がわかってきたぞ!本当の意味での自分の会社を持ちたかったんですね。自分の道の会社を。
たぶん、共同経営者の彼ができている、自分だからと人がついてきてくれる人を今度の新しい会社で育てたい、作りたいんじゃないかな?
蔵前さん
そ、その通りです!なるほど!でも今の僕のやり方でそれができますかね?
難しいかもね。だから、蔵前さんの今までのやり方でもう一つ会社を作っても、また同じような瓜二つの状況が生まれる可能性が高いって言ったんだよ。でも私は、蔵前さんって凄いと思うけどね。”術売りの極み” みたいな人で、まさに富士急ハイランドだよ。他の人から見たらそれは物凄く羨ましいことだし、既に成功してるわけだから、そのやり方をこれからも続けていくという選択もあると思うけど。
蔵前さん
…。正直言っていいですか?
え?いいよ。
蔵前さん
実は今の状況、まったく楽しくないんですよ。最初は稼ぐことこそが正義だと思ってそれで満足できたんですけど、実はもう耐えられなくなってきてるんです。
なるほど。そういう状況なら稼いだお金をストレス発散のために使っちゃってるんじゃない?
蔵前さん
いや、それはないです。僕って派手に見えるかもしれませんけど、女性欲とか物欲とかまったくないんですよ。経営者って、付き合いとかいう理由をつけて、夜の街で女性と飲んだりするじゃないですか。僕の場合は、そんなもの、まったく楽しくないしあまり好きじゃないからそういうお金の使い方もしない。ベンツに乗ってますけど、それも経費対策とステータスのためで、僕はプリウスでもいいと思ってるくらいです。だからストレスを発散しようにもお金を使うところがないんです。だから常に仕事だけをしています。
そりゃ、仕事で結果が出るわけだ。仕事の鬼みたいだもん。住宅の営業時代にもそういう人いたなー。でもずっとそれじゃあ、苦しいよね?子どものためにお金を使うとかはしないの?
蔵前さん
僕、独身です。
そっか。なんとなく最初にお会いした時に、情熱というか魂が燃えていない感じがしたんだよね。例えが悪いけど、不動産とか金融の営業マンに多い雰囲気を感じた。お金は稼いでるけどストレスフルで幸せじゃない感じ。
蔵前さん
まさにそうですよ。不動産とか金融の営業マンのことはわからないですけど、今の僕は、倉地さんが言った通りの人間だと思います。
私なら蔵前さんの今の状況をガラリと変えられるけどね。なぜかと言うと、蔵前さんみたいな術売りのキング、富士急ハイランドみたいな人をディズニーに変えてきたから。富士急をディズニーにするのは簡単だよ。私はそれだけじゃなく、三重県にある志摩スペイン村パルケエスパーニャみたいな方もディズニーに変えてきたんだから。
蔵前さん
ん?どういうことですか?すみません。僕、その施設知らないです。
なんと!私の地元、三重県の超有名遊園地「志摩スペイン村パルケエスパーニャ」をご存じない?あの「いつも混雑していないから遊びたい放題!待ち時間ゼロ!」が売りの遊園地を(笑)
蔵前さん
そんな自虐的な施設があるんですね。
そうなの。私は地元民としていつもあの遊園地を憂いてる(笑)。何をやっているんだ!と(笑)パルケエスパーニャって術売りでうまくいっていないんだよね。だってセールスポイントが「並ばず乗れる遊園地」なんだから(笑)世界観もへったくれもない。でも普通は、術売りであっても、パルケエスパーニャみたいにお客さんを呼べていないところも多いよね。だから術売りの極み「富士急ハイランド」を作っている蔵前さんはすごいと思う。パルケエスパーニャは術売りで、決してうまくいっているとは言えないんだけど、パルケエスパーニャが一度、面白いイベントをしたことがあるの。バーチャルライバーの周央サンゴさんとのコラボで、遊園地内を周央サンゴさんの世界にカスタマイズしたんだけど、そしたらありえないほどのお客さんが押し寄せたんだよね。
蔵前さん
僕、周央サンゴさん、知ってますよ。
知ってるなら話は早いね。周央サンゴさんは世界観しか売ってないわけ。だって存在自体が架空なんだからね。道売りの境地みたいなものとパルケエスパーニャがコラボしたことでどうなったか?そのコラボで、一時的ではあってもパルケエスパーニャは道売りになった。そしたらその期間の売上はほぼ2倍!チュロスは一日1000本を売って例年の33倍の売り上げになったんだって。ニュースに店員さんが出てたけど顔が忘れられないよ。「働いていて初めて楽しいって感じます!忙しくてもやりがいがあります!」って嬉しそうに話していたのを(笑)これが術売りでうまくいっていなかったところが道売りに変えて成功した例。私はまさにこれと同じことを起業家さんに起こしてる。クライアントさんのビジネスを道売りに変える。それが私の仕事なんだよね。
蔵前さん
そ、そうなんですか?同業同士でもやっていること、まったく違いますね…。
私も蔵前さんと同じようにクライアントさんの講座も作ったりするし、資料も作るよ。でも私のしている仕事はすべて道売りをするためのもの。
蔵前さん
道売りをするための講座か…。西条さんがやっていたセミナーがそれだったんですね。なるほど。そういう作り方だと、富士急ハイランドがディズニーに変わったりするってことですね?
そう。売上も変わるけど変わるのは売り上げだけじゃない。パルケエスパーニャの店員さんに起こった変化のように、そこで働く人も変わる。
蔵前さん
それだ!僕のやりたかったことは!新しい会社を作りたかったのはそれが理由だ。何か懐かしい感じがする。それこそ起業をした時に思い描いた僕の理想だった。そういう喜びを社員と共有したかったんだ!だからこそ起業したんだ!思い出したぞ!
なるほどね。でもいつの間にか理想とはほど遠い現実を引き寄せていた。売り上げはあるけど、それ以外の部分で満たされていない現実を。
蔵前さん
その通りです。僕は同じ方向を向いたスタッフと朝まで語り合いたいんですよ。僕についてきてくれる人たちに囲まれて、喜びとかを共有したい。その人たちが僕についてきてほしい。
今の会社ではそれができていないわけか。
蔵前さん
まったくできてませんね。だから不安なんですよ、実は。新しい会社を作ったら共同経営者の彼はいないから、自分一人でやったら、また人がついて来ないんじゃないかって。でも稼ぐ力はあるから、稼げば引きとめてはおけるから、またがむしゃらに稼ぐことだけに邁進しちゃいそうで。
人を物質的なものだけで引き止めておくことはできないんだよね。
蔵前さん
そう。それはもうわかってます。
だから答えを求めていた。何をやればいいのか?そして今日、私に会った。
蔵前さん
その通りですね。

「そろそろお開きにしまーす!」

西条さんの声が会場に響き渡り、このタイミングで二次会はお開きになりました。

帰り際のドタバタで蔵前さんとははぐれ、私は帰路に着くために飯田橋駅に向かっていたその時、猛ダッシュで追いかけてくる人が。

蔵前さん
倉地さん!ちょっと待ってくださいよ!?危なかったー。見失うところだった。
え?どうしたんですか?
蔵前さん
どうしたじゃないですよ!僕にとっては今日の出会いは大きすぎる出会いです。連絡先も聞いていない。まだ話が途中だし、続きを教えてもらわないと!
確かに途中で切れちゃったね。じゃあ、場所をかけてお話ししましょうか?蔵前さんがおそらく知りたいと思っている道売りのやり方の続きと道売りに変えるにはどうしたらいいか?ってことをね。

という感じで私たちは場所を変えて再度、お話しすることになりました。そしてこれが彼と私にとって、のちの大きな喜びを呼んでくる素晴らしい出会いの幕開けになることをこの時は知る由もありませんでした。

ここで自己紹介を含めコラムを書かせてください。蔵前さんと私とのやり取りは実話をもとにしたものなのですが、劇中の私、倉地加奈子はあなたにはどう見えたでしょうか?

成功している蔵前さんに対してあれだけ偉そうなことを言っている人だから、倉地さんはそれこそ、昔から道を追求し、自分の世界観を武器に生きてきた人なんだろう?そんなことを想像されたとしたら、それは大きな間違いです。

今でこそ道売り、世界観売りとかを語っていますが、私の人生の大半において、自分の世界観を表現している時なんてまったくなかったと言ってもいいほど今とは真逆な生活を送っていたんですね。私のこれまでの人生はこうです。ちょっと暗いですけどお付き合いいただけると嬉しいです。

私は幼少期から母に対して強烈な愛情不足を感じながら育ちました。生まれた時から既に母と自分との間に壁を感じていて、その壁をなんとかして壊そうと、人の役に立てば母から誉められるはずだと信じ、学芸会の主役に立候補してみたり、地区のカラオケ大会にエントリーしてみたり、学級委員をしてみたり、いろいろと挑戦してはみるのですが、その度に、

「あなたなんかが目立ってはだめ!」「あなたなんかが前に出てはダメ!」「失敗すると世の中は怖いのよ!」

褒められるどころか、私が何かで自分を発揮しようとすると常に反対する。これが私の母でした。

中学校1年生の時、私が盲腸になった時には、母からこんな言葉を浴びせられます。

「好き嫌いが多いから盲腸になんてなるのよ!」「お金がかかることばかりして!」

運が悪いことに退院してすぐに、今度は、肉離れでまたまた病院に担ぎ込まれることになった時には、病院に駆けつけた母は開口一番、

「また病院にお世話になるなんて何をしてるの!」

心配してくれるどころか血相を変えて怒る母を見て、

「私って生きている意味あるのかな…?」

いよいよ、子どもながらに、精神的に自分を保てなくなっていきましたね。まもなくして私は、自律神経失調症を発症、緊急入院をしなくてはならなくなります。まだ、この病気が世の中に知られる、だいぶ前のお話しです。

結局、私はこの時から15年以上、自律神経失調症と付き合うことになり、大人になるまで通院を続けることになるわけです。

この入院をきっかけに、私の母への気持ちは、愛されたいから怒りに変わっていきました。

「お母さんは何も私のことをわかってくれないじゃないか!私を止めてばかりじゃないか!」

とにかく何をするにも必ず反対する母。それだけじゃなく、母は、私を自分の思い通りの人間になるようにコントロールしてくるのです。

高校受験の際には、兄が滑った高校に敵討ちだと、母が指定した高校に無理やり行かされました。行きたかった志望校に受かっていたのに!ですよ。

20歳になってできた彼氏に至っては、飲食店で働いているという理由で別れさせられ、さらに、就職してからは、仕事の帰りが遅いという理由で怒り狂い、職場までストーカーのように様子を伺いにくる。

「もう私、大人なのに!」

それだけではありません。仕事から疲れて、門限を過ぎて自宅に戻ると、スコップやゴミ箱が飛んでくる…。自分で書いていても「まあひどい!」こんな冗談のような生活、これが私の青春時代のすべてであり、それこそ、道とか世界観とかそんなものとは無縁の自分のやりたいことを制限させる中で育ったのが私だったのです。

「母から逃げるにはもう誰かと結婚して自宅を出るしかない!」

20歳を過ぎた頃、私はとんでもない不純な動機でその時、付き合っていた男性と結婚し、自宅を離れます。

「これで母からは解放され自分らしい生活が待っている!」

そんな希望を抱き、やっとのことで母から離れましたが、そんな私に待っていたのが、今度は ”何をやってもうまくいかない生活” でした。

「母から離れたはずなのに…。仕事はうまくいかない…。結婚生活も…。でもなんでなの…?」

私の半生は、母の支配によって作られたと言って過言ではないほど、母は私に強烈な呪縛を与えていたのでした。

母により幼少期から20歳を超えるまで、まったく幸せではない人生を送ってきた私でしたが、それでも私の唯一の支えと希望になったもの、それが父の存在でした。

私は大のお父さんっ子でした。愛する父は、私と母の仲違いを理解してくれていましたし、常に私の見方でい続けてくれていました。20歳を少し過ぎでの若すぎる結婚も、 ”母と離れたいためのもの” という私の真意をわかってくれていたため、賛成してくれましたし、母とのいざこざで精神的に落ちた時にはいつも、私の話を聞いてくれる優しい人、それが私の父です。

母から逃れ、スタートした私の結婚後の生活は、ほんと悲惨でしたね…。理由がわからないのもきつかった…。精神的にどんどん落ちていき、自律神経失調症に加え、この時、うつ病も発症します。結婚も仕事も何もかもうまくいかなくなり、でもそれが自分でも、なぜこうなっているのかわからない…。この時の感覚は、何かの箱の中に囚われているような感覚で孤独でした…。

「とにかく助けてほしい…。」

それしか思ってなかった。この時は常に、生死と隣り合わせだったと思います。

そして、いよいよ精神的限界を迎えた私に、当時の心療内科の先生は、いったん旦那さんと距離を置いて、父と同居をすることを勧めてくれました。そうでもしないと私の精神が持たないと判断したのでしょう。でも実はこれがとても嬉しかった…。

「お父さんが私と一緒に住んでくれる!」

真っ暗な闇の中でも何か希望のようなものが見えた気がしたのです。しかし次の日、信じられないことが起こります。私と一緒に住んでくれると昨日、約束したばかりの父が、あろうことか、原因不明の突然死を遂げたのでした…。

この時の精神的ショックは言葉で言い表せないほどです。病院に向かったこと、その後、お通夜とお葬式があったこと、ショックのあまり、覚えていません。ただ、火葬場で、もうこれで父とは一生会えないんだと認識した時、我にかえり…、その瞬間、私の中の何かが壊れました。それと同時にわかったのです。

「父の死は自分が引き寄せた…。」

これは何も自暴自棄になっていたから、そう思ったのではありません。私が母を超えられていないことが、うまくいかない結婚を呼び、うまくいかない仕事を呼び、そして父の死を呼んだ…。すべてを引き起こしていたのは自分だった…。そのことがはっきりとわかってしまったのです。

私は母から「あなたは目立ってはいけない」「自分を発揮してはいけない」と言われ続けて生きてきましたが、その結末がこれですか。母からの愛情不足をなんとかして埋めよう埋めようとして生きてきて自分を発揮しないでおこうと制御し続けたらこうなるんですか。

さすがにぶっ壊れましたね。それほど最愛の父の死は私にとってショックが大きかった。でもその時、同時に私の中で湧き上がってくる思いがありました。

「もうこれからは何からも囚われることなく自分の生きたいように生きよう。」

そう思えた途端に母の背中は小さく見え、価値観が180度変わったような感覚になったのでした。

その後、私は離婚をし、仕事も変えて、自分の第二の人生をスタートさせました。30歳で起業をしたのですが、父の死以前の私なら、絶対にそんな選択はしていなかったと思います。母が自営業をすることに大反対していましたしね。「自営は危険だよ!世の中は怖いよ!」って。

でも、もうそんなことは私にとってどうでもよかった。もう母のことなんて気にならなくなっていた。価値観と人間が180度変わったのです。

「自分の世界を生きていいんだ!自分を発揮して仕事をしたい!」

これが私が起業することになった理由です。でもほとんどの人もやはりこのような動機から起業を志すのではないでしょうか?

私は現在、道売りとか世界観を売りにしてビジネスをするためのお手伝いをさせてもらっています。それは私自身が、自分の世界で生きられなかったことによって悲劇を体験したためです。本当はそれをしたいのに我慢して違う世界を生きていて破壊が起こるのであれば、そんな人をもう世の中に生みたくないためです。

今ではわかります。自分の世界で生きること、こんなに心が自由で楽なことはありません。しかもそうやって生きている人は魅力を放ち、その魅力は物質的なものをはるかに凌駕する。しかも、その人独自の世界は唯一無二で誰にも演じらないから比べられることもありません。

本当は道売りをしたいのに術売りしか知らないために満たされない、モヤモヤしている方は道売りへのシフトを考えるべきです。自己実現できてないことは辛いんですよね。

ということで、2章以降、さらに詳しく道売りについて切り込んでいきますので、どうぞお付き合いくださいませ。

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